春日井市、約30億円の土地の買戻しに対する、住民監査請求の結果が来ました。

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私、はらだよしひろが、個人的に思ったことを綴った日記です。社会問題・政治問題にも首を突っ込みますが、日常で思ったことも、書いていきたいと思います。

目次

住民監査結果について。

結論から言うと、この監査結果は、

  • ① 返還金から「違約金」と「使用料相当額」を差し引いて(相殺して)差額だけ払った処理も、
  • ② 議会議決なしで「買戻し(=契約解除に伴う土地の返還)」をしたことも、

どちらも「違法・不当とはいえない」として、私の主要主張は棄却
それ以外の「ガイドライン整備・情報公開・職員処分」等の要求は、そもそも住民監査請求の対象外として却下、という構図です。

1) まず、この監査で「何が争点」になったか

監査委員は、あなたの請求のうち、主に次の2点だけを「監査対象」に絞りました。

争点A:相殺処理(お金の清算)が違法・不当か?

市は花王に返すお金(返還金)から、

  • 違約金 982,998,611円
  • 使用料相当額 329,295,904円

を差し引いて(相殺して)、

  • 1,661,247,522円だけを花王に支払った

この一連の会計処理が違法/不当か、という点です。

争点B:議会議決が必要だったのに欠けた違法があるか?

あなたは「これだけ巨額の財産処理なら議会議決が必要」と主張。
市は「これは新たな取得ではなく、契約解除に伴う返還」だから不要、と主張。
監査委員はこの点も判断対象にしました。


2) 逆に、監査委員が「対象外」と切った部分(ここが重要)

あなたが強く書いている

  • 「やむを得ない事情」を市が不認定にしたのは比例衡量を欠く
  • 政策パッケージ等を踏まえた延長検討が足りない
  • ガイドライン整備、情報公開、職員責任追及(懲戒等)を求める

といった部分について、監査委員はこう整理します。

  • 「やむを得ない事情」不認定などの判断は、財務会計行為そのものではない
  • ガイドライン整備・情報公開・懲戒等も、住民監査請求で直接求められる“措置”ではない

だから、そこは**監査の対象にしない(=却下)**という扱いです。
(この「枠の切り方」が、この監査結果の骨格になっています。) 監査請求結果(花王)


3) 監査委員が「事実として認定した流れ」(超ざっくり年表)

  • 2018/2/22 仮契約→議会可決で本契約へ
  • 2019 契約変更(議会可決)
  • 2020/3/27 土地引渡し・代金支払(保証金を除く返還対象額が確定)
  • 2023/11/29 花王が「期限までの供用開始困難」通知
  • 2024/6/14 花王が「建設中止」通達
  • 2024/7/19〜7/22 市が金額条件を提示→花王が承諾
  • 2024/8/21 急施議会で補正予算可決
  • 2024/9/27 合意書締結、土地引渡し完了
  • 2024/10/30 差額 1,661,247,522円を支払い、違約金・使用料相当額は歳入処理 監査請求結果(花王)

4) 監査委員の判断(なぜ「適法・妥当」とされたか)

A) 違約金 982,998,611円は「発生も計算も妥当」

監査委員の理屈はシンプルで、

  • 契約(および公募時の条件)に、解除/買戻しの場合は売買代金の3割と明記
  • 今回は花王が建設中止→契約解除・買戻しに至った
  • だから 売買代金 3,276,662,037円 × 0.3 = 982,998,611円は妥当

という整理です。 監査請求結果(花王)

あなたが問題視した「やむを得ない事情」「帰責性」「相当因果関係の吟味不足」などは、さきほどの“枠”で、監査委員は深掘りしません。


B) 使用料相当額 329,295,904円も「算定要素は明確」

監査委員は、

  • 契約条項で「どの期間の使用料を払うか」「どう算出するか」が定められている
  • 使用期間も双方協議で 2020/3〜2024/7 と確定
  • 市の要綱(算定基準)に基づき年度ごとに算定し、固定資産税等を控除して算出している

ので、算定要素は全部そろっていて明確、と判断しています。 監査請求結果(花王)


C) 相殺そのものも「合意で確定しており、手続も適正」

相殺については、

  • 民法505条(互いに同種の債務が弁済期にあるとき相殺できる)
  • 合意書で双方の債権債務を確定し、相殺することに合意している
  • 予算執行・会計規則に沿って、支出負担行為や調定などの手続も踏んでいる

ので、法にも手続にも反しない=違法・不当ではない、という結論です。 監査請求結果(花王)


D) 議会議決の点も「不要とした市の判断は妥当」

ここは、監査委員が「行政実例」まで持ち出して、市の判断を補強しています。

  • 市の条例では、議会議決が必要な契約(工事請負等)や財産取得処分を限定している
  • 市は今回を「新たな取得ではなく、解除に伴う返還」と整理
  • さらに、昭和33年の行政実例として「解除は契約内容変更であり、改めて議決は要しない」という考え方がある
  • よって、市が議決不要とした判断は妥当

という流れです。 監査請求結果(花王)


5) 最終結論(棄却と却下の違いも含めて)

  • 相殺処理が違法/不当棄却(理由なし)
  • 議会議決欠缺の重大違法棄却(理由なし)
  • その他(政策判断の当否、ガイドライン、公開、懲戒等)却下(そもそも監査対象外) 監査請求結果(花王)

ざっくり言うと

  • 棄却=中身を審査した上で「ダメ」
  • 却下=入口で「この手続では扱えない」

では、この監査結果の問題点は、どういうところにあるのでしょうか?

この監査結果の問題点

0 はじめに――「結論」より先に、「監査の作法」を点検する

大泉寺地区企業用地をめぐる花王との合意解除と、その清算(返還金から違約金・使用料相当額を相殺して支払う処理)について、監査委員は「適法・妥当」として主要部分を棄却し、それ以外は「財務会計行為ではない」として却下しました。

しかし、この監査結果を読んでまず引っかかるのは、結論の是非以前に、監査が“何を監査し、何を監査しないか”という線引きの仕方です。
住民監査請求は、単なる形式審査ではなく、公金・公有財産の管理処分が、法令・規程の趣旨に照らして適正かを点検する制度です。にもかかわらず、本件では“監査の射程”が狭く切られ、その結果、問題の芯に届かないまま「適法」と言い切っている箇所が目立ちます。

以下、この監査結果の問題点を、論点ごとに整理します。


1 最大の問題――「政策判断は監査対象外」で、原因部分が丸ごと切られている

監査委員は、花王側の事情を「やむを得ない事情」と認めなかった市の判断について、財務会計行為ではないとして監査対象から外しました。
けれど本件で争点になっているのは、単なる“心情としての評価”ではありません。

  • 「延長を認めない」
  • 「違約金を前提とする清算に誘導する」
  • 「その金額を相殺し、歳入として計上する」

これらは一本の線でつながっており、原因(判断)を監査対象外にして、結果(相殺・歳入歳出処理)だけを監査すると、監査は最初から骨抜きになります。
違約金債権の成立・確定は、単に条文があるかではなく、**その条文が発動する前提(解除の適法性、免責・猶予条項の適用可能性、帰責性の評価など)**と不可分だからです。

つまり、ここでの線引きは、監査の形式を整えつつ、実質に踏み込まないための“遮断”になっています。


2 「合意したのだから問題ない」という論法の危うさ

監査結果は、花王が協議の結果として違約金と使用料相当額を支払うことに合意している、だから市が不当に請求したとはいえない――という趣旨の書きぶりを採っています。

しかし、行政側が強い交渉力を持つ局面での「合意」は、それ自体で公的適正さを保証しません。むしろ論点は逆です。

  • 合意に至る過程で、市が適正な根拠・算定資料・論理を提示していたのか
  • 条項の趣旨に照らし、減免や猶予の余地を検討した形跡があるのか
  • 「合意」によって、市民の財務リスク(将来の紛争・訴訟・信用低下)を増やしていないか

住民監査請求が点検すべきは、当事者間の“納得感”ではなく、普通地方公共団体としての判断過程の合理性・適法性です。
「合意したからOK」は、監査として最も使ってはいけない近道です。


3 違約金の検討が「0.3を掛けた」だけで終わっている

監査結果は、違約金について「契約に3割とある」「花王が中止した」「だから妥当」と整理します。
しかし、ここには大きな飛躍があります。

(1)「違約金が発生する場面」認定が粗い

違約金条項があっても、実際にその条項が発動するには、少なくとも

  • 解除の要件・手続
  • 免責・猶予条項との関係
  • 帰責性(相手方の責めに帰すべき事情か)
  • 相当因果関係(どの違反をどの損害・制裁に対応させるか)

など、条項体系全体を踏まえた検討が必要です。
ところが監査結果は、**「中止した=解除・買戻し=違約金発生」**という直線で処理してしまっています。

(2)「損害賠償額の予定ではない」条項の意味が宙に浮く

監査結果が引用する契約条項には、「違約金は損害賠償額の予定ではない」とする趣旨の規定が含まれています。
これが本当なら、違約金は「実損の補填」ではなく、制裁・担保・制度設計としてのペナルティに近い性質を持つことになります。
その場合こそ、監査は「過大・不相当の疑い」や「重複的な徴収」との関係を、より慎重に点検すべきです。

ところが実際には、監査結果はここを深掘りせず、結局「3割だから妥当」として終わっています。
これは監査としての検討密度が足りません。


4 使用料相当額――「算定要素は明確」と言うが、明確さの中身が示されない

使用料相当額について監査結果は「期間も算出方法も定められており、要素はすべて明確」とします。
しかし、住民監査請求が問題にしているのは、「要綱に式が書いてあるか」ではなく、

  • 実際に用いた路線価・面積・期間・控除税額のデータ
  • 年度ごとの計算表
  • 起算点・終期の合理性(なぜ解除月までか、協議期間をどう扱うか)
  • 市の手続遅延がある場合の調整の有無

など、監査可能な形で裏付け資料が提示されているかです。
監査結果は「明確」と言いながら、その“明確さを担保する書類の存在と内容”を、読み手が追える形で示していません。
これでは「監査しました」という宣言に近く、監査の説得力が弱い。


5 二重取りの疑念に、正面から答えていない

あなたが指摘した「違約金+使用料相当額が同じ事象に対する重複補填ではないか」という疑念は、公金の適正から見て軽くありません。
ところが監査結果は、両方の条項があることを確認したうえで、「条項にあるから妥当」と流してしまっています。

しかし本来は、

  • 違約金が制裁なら、使用料相当額は何を補填するのか
  • 使用料相当額が占有・利用の対価なら、違約金は何を担保するのか
  • 両者の機能が重なるなら、調整(控除・減額)を検討したか

という機能分析が必要です。
条項が2つ並んでいること自体が、二重取り疑念の“解消”にはなりません。


6 相殺――民法505条を持ち出すだけでは、公会計の核心を外す

監査結果は、相殺について民法505条を引用し、「合意書で債権債務を確定したから問題ない」と整理します。
しかし、公会計の相殺は、民間同士の相殺と同じ発想で処理してよいものではありません。

住民側が問題にしているのは、

  • 違約金債権が「成立・確定」しているのか
  • 収入決定(調定)としての根拠資料が十分か
  • 期日到来・通知到達など、債権管理の記録が整っているか

という、自治体財務の手続保障です。
民法の一般論で「相殺できる」と言った瞬間に、自治体が負うべき厳格な手続の話が霧散してしまう。
監査の役割はまさにそこを点検するはずです。


7 議会議決――「返還だから取得ではない」という整理の危うさ

監査結果は、市の主張どおり

  • これは新たな取得ではなく、解除に伴う返還
  • 行政実例(昭和33年回答)でも議決不要

として、議会議決不要を「妥当」とします。

しかし、ここにも論理の飛躍があります。

  • 形式上は「解除に伴う原状回復」でも、実態は巨額の財産処理と予算執行を伴う
  • 議会の関与を「補正予算の議決だけ」で足りるとするなら、合意書の内容(違約金相殺、使用料算定、清算条件)の統制が空洞化する
  • 行政実例は、事案の同一性・条例との関係・現代の議会統制の要請を精査して初めて援用できる

少なくとも、監査結果が示す理由付けは短く、“議会統制をどう確保するか”という民主的統治の論点に触れていません。
行政実例を持ち出すならなおさら、反対説(議決要説)の合理性にも言及して、なぜ本件では不要といえるのかを丁寧に書くべきです。


8 おわりに――この監査結果が残した「宿題」

この監査結果のいちばんの問題は、違法と断ずるかどうか以前に、住民が検証可能な形での説明になっていない点にあります。
「条項にある」「合意した」「要素は明確」「手続は適正」――その言葉だけが並び、肝心の資料・判断過程・比較衡量が見えない。

監査が市民に返すべきものは、「結論」だけではありません。
市民が次の疑問を持ったときに、自分の頭で追えるだけの

  • 算定の内訳
  • 判断の筋道
  • どの資料を確認し、どこをもって妥当としたか

という“検証の道具”です。

本件のように、契約解除・違約金・使用料・相殺・議会統制が複雑に絡む案件では、監査が踏み込んでこそ、再発防止にもなります。
逆に言えば、監査が浅いほど、同種案件は「合意書でまとめれば通る」という慣行が強化され、自治体ガバナンスは弱くなる。

この監査結果は、事件を終わらせたのではなく、むしろ――
“自治体は何を根拠に、どこまで説明すべきか”という宿題を市民側に投げ返した
私は、そう読んでいます。

この監査結果の「憲法上の問題」

ここまで私は、この監査結果の「自治法・契約・会計」レベルの問題点を整理してきました。
ただ、もう一段上のフレーム――つまり「憲法」の観点から見ても、この監査結果は気になる点を残しています。

結論から言えば、これは「人権侵害だ!」というタイプの話というより、地方自治(住民自治・議会統制)という統治原理が、監査の書き方・割り切り方によって骨抜きになっていないか、という問題です。 e-Gov法令検索+1

1)地方自治の本旨(憲法92〜94条)と、「議会統制」の空洞化

憲法は、地方自治を単なる行政の仕組みではなく、**住民の民主的統制(代表機関である議会による統制)**として位置づけています(憲法92条〜94条)。 e-Gov法令検索

この視点に立つと、監査結果の「議会議決は不要だった」という結論は、単に法律解釈の当否にとどまりません。
なぜなら、今回の合意解除は、

  • 土地(巨額の財産)が自治体側に戻る
  • 返還金、違約金、使用料相当額を確定し、相殺して清算する
  • 「これ以上、債権債務はない」と終局させる

という、自治体ガバナンス上かなり重たい処理を含んでいるからです。

それにもかかわらず、「返還だから取得ではない」「行政実例がある」で短く処理してしまうと、憲法が予定する**議会統制(=住民自治の回路)が、実務上どんどん細くなります。
言い換えると、
“重要なことほど、合意書と予算措置で片付ければ議会を通さずに済む”**という慣行を強める危険があります。 e-Gov法令検索+1

2)地方自治法96条は「憲法(地方自治の本旨)」の具体化——だからこそ丁寧さが要る

地方自治法96条(議会の議決事件)は、まさに憲法92〜94条の具体化です。 e-Gov法令検索
だから、今回のようなケースで本当に問題になるのは、「8号(財産の取得・処分)に当たるか」だけではありません。

合意解除の中身次第では、

  • 10号(権利放棄):自治体が本来取り得た請求(原状回復・追加費用・損害など)を“清算条項”で切ってしまう
  • 12号(和解等):争い得る点(違約金の成立・範囲、使用料の期間等)を一定の譲歩・確定で終局させる(裁判外でも「和解的」な性格を帯びる)

という見方が出てきます。 e-Gov法令検索

ところが今回の監査結果は、議決論点を実質的に「取得かどうか(8号)」に寄せ、10号・12号を正面から検討した形跡が薄い
ここに、憲法上の自治原理(議会統制)との緊張が生じます。

3)「監査対象外」で原因部分を切るほど、住民自治(憲法92条以下)が弱まる

住民監査請求(地方自治法242条)は、住民が自治体財務をチェックするための制度です。これは、憲法の地方自治と非常に相性がいい――というか、実質的にはその一部です。 e-Gov法令検索

ところが本件では、監査委員が

  • 「やむを得ない事情」不認定の当否
  • 再延長を検討しなかった合理性
  • 交渉過程の比較衡量・比例の有無

といった“原因側”を「財務会計行為ではない」として切り落としました。

もちろん制度上、監査の射程に限界があるのは分かります。
しかし、原因を丸ごと対象外にすると、結果(違約金・使用料・相殺)だけ見ても、「なぜその結論になったのか」を住民が検証できない
これは憲法上の言葉に直すと、住民自治の前提となる説明責任・統制可能性が痩せる、という問題です。 e-Gov法令検索+1

4)「合意したからOK」は、公務員=全体の奉仕者(憲法15条2項)と相性が悪い

監査結果には、ざっくり言えば「相手方も合意しているのだから不当ではない」という含意が見えます。
でも自治体は、民間同士の契約主体ではなく、公金・公有財産を扱う主体です。公務員は「全体の奉仕者」とされます(憲法15条2項)。 e-Gov法令検索

だから本来は、

  • 合意に至るまで、どんな資料・算定根拠・比較衡量をしたのか
  • 住民に説明できるだけの「検証の道具」(計算表、根拠、決裁過程)が揃っているか

が重要になります。

この点で、監査結果が「要素は明確」「手続は適正」という言葉だけを並べ、住民が追試できる形で示していないことは、自治(=憲法上の統治原理)から見て大きな弱点です。 e-Gov法令検索+1

5)まとめ:憲法上の問題は「結論の違憲」ではなく、「自治の回路が細る」こと

繰り返しますが、ここで私が言いたいのは「監査結果は憲法違反だ」と短絡する話ではありません。
憲法上の問題として私が危惧するのは、むしろ次の一点です。

重要な財産処理ほど、
「監査対象外」「合意したから」「行政実例がある」
という言葉で通ってしまい、
議会統制と住民の検証可能性が、実務として弱っていく。

憲法92〜94条が守ろうとしているのは、まさにそこです。 e-Gov法令検

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