【春日井PFAS訴訟】最高裁から決定が届きました――敗因は「事実」ではなく「訴訟の型」だった
私、はらだよしひろが、個人的に思ったことを綴った日記です。社会問題・政治問題にも首を突っ込みますが、日常で思ったことも、書いていきたいと思います。
目次
【春日井PFAS訴訟】最高裁から決定調書が届きました。
春日井PFAS訴訟、ついに最高裁から決定調書が届きました。

結論、敗訴です。
ただ、最高裁での記録到達通知が1月末であることを考えると、4か月は粘りました。
最高裁は記録到達から3ヶ月以内で決定通知が行くのが、60~70%であることを考えると、粘ったほうでしょう。
しかも、私自身が本人訴訟で第1審に致命的なミスを犯したことを考えれば、よくここまで審議してくれたと思います。
今回の敗訴について、率直に振り返ります。
私がこの訴訟で問題にしたかったことは、極めて単純でした。
令和5年8月1日に、春日井市の町屋第3水源で60ng/L、町屋第6水源で56ng/Lという、国の暫定目標値50ng/Lを超えるPFOS及びPFOAの検査結果が出た。ところが春日井市は、その結果を公表しなかった。その後、8月21日に再検査を行い、町屋送水場18ng/L、町屋第3水源32ng/L、町屋第6水源47ng/Lという、暫定目標値を下回る結果だけをホームページ上で公表した。訴状でも、8月1日結果と8月21日結果、そして8月1日結果が公表されていない事実を時系列で主張していました。
さらに、令和5年9月26日の春日井市議会で、市長はPFOS及びPFOAについて「引き続き水質検査の結果を公表するとともに」と答弁した。しかし、その時点で8月1日採水分の結果は公表されていませんでした。訴状では、この市議会答弁についても、8月1日結果の報告を受けながら公表していない事実と結びつけて主張していました。
市民として見れば、これは非常に重大な問題です。
水道水の安全性に関わる情報であり、しかも国の暫定目標値を超えた結果です。それを公表しないまま、後日の低い数値だけを公表する。これで、市民が水道水の状況を正しく理解できるのか。市民が行政を信頼できるのか。私はそこを問いたかった。
しかし、裁判で問うべきことと、社会的に問いたいことは、必ずしも同じ形ではありません。
ここが、今回の最大の敗因でした。
住民訴訟で問われるのは「PFAS非公表そのもの」ではなかった
私が提起したのは、住民訴訟でした。
訴状の請求の趣旨では、春日井市長に対し、石黒市長や配水管理所の職員らに対して、各自224,400円及び遅延損害金を請求せよ、という裁判を求めていました。つまり、令和5年8月21日採水分の再検査に係る別契約と、その支出224,400円を問題にした訴訟です。
ここで重要なのは、住民訴訟では、中心に置くべきものが限定されるということです。
裁判所が見るのは、主に次の点です。
この224,400円の支出は、財務会計行為として違法なのか。
その財務会計行為について責任を負う「当該職員」は誰なのか。
春日井市に224,400円の損害が発生したといえるのか。
つまり、裁判所にとっての中心は、PFAS非公表そのものではありません。
もちろん、PFAS非公表は重要です。しかし、住民訴訟4号請求では、それはあくまで「別契約支出の違法性を基礎づける事情」として位置づけなければならなかった。
本来なら、訴状の中心命題はこう書くべきでした。
本件は、PFAS検査結果の非公表そのものを直接争う訴訟ではない。
本件で原告が争うのは、令和5年8月1日に既に当初契約に基づく検査結果が得られていたにもかかわらず、市がこれを公表せず、同月21日に別契約により再検査を実施し、その結果のみを令和5年度水質検査計画に基づく結果として公表したことにより発生した224,400円の財務会計上の支出である。
この整理が、最初から必要でした。
ところが、私の訴状は、事実はかなり集めていたものの、住民訴訟の要件事実に十分に配置し切れていませんでした。
事実収集はできていた。しかし、要件事実への変換が甘かった
今回の訴訟で、事実収集そのものは弱くなかったと思っています。
8月1日の検査結果、8月21日の再検査結果、別契約の締結、224,400円の支出、市長への報告、市議会答弁、ホームページ上の公表状況など、一連の事実はかなり追いかけました。
訴状でも、当初契約に基づき8月1日に採水が予定されていたこと、町屋第4水源のポンプ故障、取水量制限、8月7日の速報、8月8日の追加検査打合せ、8月15日の別契約化、8月18日の別契約締結、8月21日の再検査、9月1日の市長報告という流れを整理していました。
しかし、裁判では、事実を集めるだけでは足りません。
その事実を、どの請求権の、どの要件に、どう当てはめるのか。
これが必要です。
住民訴訟4号請求であれば、本来は次のような骨格にしなければなりませんでした。
住民性と監査請求前置。
別契約締結及び224,400円の支出という財務会計行為。
その財務会計行為について権限を持つ当該職員。
別契約支出の目的・必要性・判断過程の違法性。
故意又は過失。
市に生じた損害。
違法な支出と損害との因果関係。
この中で、私の主張が特に弱かったのは、当該職員、違法性、損害の3点です。
特に「損害」は難しかった。
市は、8月21日の検査を実際に行い、検査結果を受け取っています。裁判所から見れば、「検査という成果物がある以上、224,400円がそのまま損害とはいえない」と判断しやすい。
だからこそ、私は単に「別契約が違法だから224,400円が損害だ」と主張するのではなく、こう主張すべきでした。
8月21日検査は、水質管理上必要な追加検査ではなく、8月1日結果を公表しないまま、より低い数値を公式結果として置き換えるために行われた支出である。したがって、目的外支出であり、検査結果という形式的成果物が存在しても、公金支出としての有益性は否定される。
ここまで踏み込んで、別契約支出の目的違法性を立証する必要がありました。
第1準備書面の出し方は、大きな失敗だった
もう一つ、非常に大きかったのが、原告第1準備書面の出し方です。
私は、訴状提出後に水道法24条の2などの条文を見つけ、別契約の水道法令違反、8月1日結果の非公表の違法、知る権利や憲法99条との関係を補強する準備書面を出しました。
第1準備書面では、冒頭から「訴状における主張を補強若しくは追加する目的」と書き、補強項目として、別契約の水道法令違反、当初契約による水質検査結果の非公表、水道法違反・憲法99条違反の具体化を掲げています。
さらに、その準備書面では、今回のように法令を根拠とした不正・違法はそれまで主張してこなかった理由として、「根拠となる法令を探し出せていなかった」と率直に書いてしまいました。そして、訴状提出後に鶴舞中央図書館で『水道実務六法』を見つけ、水道法20条、24条の2、24条の3、水道法施行令9条などを発見した経緯まで書いています。
これは、研究の記録としては正直です。
しかし、訴訟書面としては危険でした。
裁判所から見れば、こう見えます。
「訴状提出時点では、法的構成が固まっていなかったのではないか」
「原告は、後から法的根拠を探して補修しているのではないか」
「この事件の中心は、公金支出ではなく、水道法違反やPFAS非公表なのではないか」
本来、原告第1準備書面は、被告答弁書を待ってから出すべきでした。
被告が何を争点にしてくるのか。
財務会計行為性を争うのか。
当該職員性を争うのか。
損害を争うのか。
8月1日検査の性質を争うのか。
その答弁を見てから、一つずつ潰すべきでした。
たとえば、こういう構造にすべきでした。
被告は、本件を非財務行為の問題にすぎないと主張する。
しかし、原告が対象としているのは、8月21日再検査に係る別契約締結及び224,400円の支出である。
8月1日結果の非公表は、独立した請求対象ではなく、別契約支出の目的・必要性・判断過程の違法性を基礎づける事情である。
水道法24条の2は、非公表状態が法令上も許されないことを示す事情であり、別契約支出の違法目的・裁量逸脱を基礎づける。
こう書けば、水道法24条の2も、知る権利も、憲法論も、すべて「財務会計行為の違法性」に従属します。
しかし、私の第1準備書面では、逆に、水道法違反、知る権利、憲法99条違反が前面に出てしまいました。
これは、住民訴訟としては主戦場をずらしてしまったと思います。
「水質検査計画は法令である」と言い切ったことも、強すぎた
私は途中から、令和5年度春日井市水道水質検査計画を重視しました。
春日井市自身が、水質検査計画で検査結果を公表すると書いている。ならば、8月1日結果を公表しないことは違法だ。これは非常に重要な発想でした。
ただし、ここでも言い方を誤りました。
私は、水質検査計画を「法令である」と強く主張しました。
しかし、裁判所にとっては、そこは飛躍に見えやすい。
本来は、こう書くべきでした。
水質検査計画それ自体が、条例や規則と同じ意味での法令であるとまでいう必要はない。
しかし、水道法施行規則に基づき毎年度策定される法定の計画であり、少なくとも水道事業者自身の裁量基準、自己拘束基準として機能する。
したがって、市が同計画に「検査結果を公表する」と記載し、従前もPFOS/PFOA結果を公表してきた以上、特定の結果だけを公表しないには合理的理由が必要である。
この構成なら、裁判所にも届きやすかったと思います。
「法令違反だから当然無効」ではなく、「自己拘束」「平等原則」「裁量逸脱」「判断過程の不合理」として積み上げるべきでした。
8月1日検査を「完全な定期検査」と言い切る必要はなかった
被告側は、8月1日検査について、町屋第4水源のポンプ停止や取水量制限があったため、通常状態の検査ではない、という主張をしてきました。
ここに対して、私はもっと柔軟に反論すべきでした。
つまり、8月1日検査が完全な通常状態の定期検査であった、と言い切る必要はなかったのです。
むしろ、こう言えばよかった。
仮に8月1日検査が通常状態の定期検査ではないとしても、それは公表しない理由にはならない。
取水量制限下の検査結果であるなら、その旨を注記して公表すればよい。
通常状態でないことは、非公表の理由ではなく、公表時に説明すべき事情である。
これは、かなり強い反論になったはずです。
なぜなら、被告の「通常状態ではない」という主張を正面から否定せず、逆に利用できるからです。
8月21日検査についても同じです。
私は、8月21日検査の有用性を全面否定する必要はありませんでした。
むしろ、
8月21日検査が水質管理上有用であったこと自体は争わない。
問題は、8月1日結果を公表しないまま、8月21日結果のみを公表したことである。
8月21日結果が有用なら、8月1日結果と併記し、条件の違いを説明すればよかった。
こう主張すべきでした。
当該職員の構成も甘かった
住民訴訟では、「誰が関わったか」だけでは足りません。
重要なのは、その財務会計行為について、誰が法令上または専決上の権限を有していたかです。
私は、石黒市長、配水管理所の所長、所長補佐、主査、上下水道経営課主査らを相手方として構成しました。訴状でも、その者たちを損害賠償請求等の相手方として列挙しています。
しかし、裁判所は、単に「関与した人」ではなく、「当該財務会計行為について権限を有した人」を見ます。
本来であれば、別契約の支出負担行為、契約締結、支出命令について、誰が専決権限を有していたのか。どの決裁文書に誰が押印したのか。配水管理事務所の職員は単なる補助者なのか、それとも財務会計行為の内容を実質的に形成した者なのか。市長については、本来的権限者としての責任なのか、専決者に対する指揮監督義務違反なのか。
ここをもっと精密に整理すべきでした。
敗因は、本人訴訟だからではない
今回の敗因を、「本人訴訟だから負けた」とは思っていません。
本人訴訟でも、事実は取れる。
公文書開示請求を使えば、行政内部の時系列、決裁、契約、報告、会議メモ、ホームページ掲載状況まで追うことができます。
今回も、証拠収集はかなりできていたと思います。
敗因は、本人訴訟だからではなく、事実を訴訟類型に合わせて要件事実へ変換する技術が足りなかったことです。
社会的には重要な事実であっても、住民訴訟では、財務会計行為、当該職員、違法性、損害、因果関係に落とし込まなければならない。
PFAS非公表という重大な問題を、224,400円の別契約支出の違法性へどう接続するか。
ここが甘かった。
それでも、この訴訟には意味があった
敗訴は敗訴です。
しかし、この訴訟には意味があったと思っています。
少なくとも、春日井市のPFAS検査結果の公表のあり方について、8月1日結果と8月21日結果の扱いの違いを明らかにしました。
また、情報公開請求、公文書分析、住民監査請求、住民訴訟という手段を使えば、市民一人でも行政の水道行政を検証できることを示せたと思います。
そして何より、私は今回、訴訟の怖さを学びました。
事実を集めるだけでは勝てない。
正義感だけでも勝てない。
憲法論だけでも勝てない。
法令を見つけただけでも勝てない。
裁判では、請求権を選び、その請求権の要件事実に、事実を正確に配置しなければならない。
この経験は、痛いですが、非常に大きいです。
次に進むなら、構成を変える
もし次にこの問題を争うなら、住民訴訟ではなく、別の訴訟類型を考えるべきだと思っています。
たとえば、国家賠償請求であれば、中心は224,400円の公金支出ではありません。
中心は、8月1日採水結果を公表しなかったこと、8月21日結果のみを公表したこと、市議会で「引き続き水質検査の結果を公表するとともに」と答弁したことにより、原告個人の知る権利、健康に関わる自己決定利益、精神的平穏が侵害された、という構成になります。
あるいは、公法上の法律関係確認訴訟として、春日井市には8月1日採水分のPFOS/PFOA結果を、8月21日結果と併記し、条件注記付きで公表すべき義務がある、という一点に絞る方法もあります。
この方が、今回の問題意識には合っていたかもしれません。
最後に
今回の訴訟の敗因は、事実が弱かったことではありません。
事実はありました。
証拠もありました。
問題意識も間違っていなかったと思います。
敗因は、その事実を、住民訴訟4号請求の要件事実に配置し切れなかったことです。
8月1日結果の非公表。
8月21日再検査。
別契約224,400円。
市議会答弁。
水質検査計画。
水道法24条の2。
知る権利。
憲法25条。
これらを全部、別契約支出の違法性に従属させるべきでした。
それができなかった。
この失敗は、私にとって大きな財産です。
本人訴訟でここまで来たことは、一つの到達点です。
しかし、ここで終わりではありません。
行政の透明性、水道水の安全性、市民の知る権利。
これらを守るためには、怒りだけでは足りない。
証拠だけでも足りない。
法的構成が必要です。
今回の敗訴を、次の訴訟技術に変えていき、いわゆるPFASの水質検査結果隠しという問題を必ず明るみにしていきます。
はらだよしひろと、繋がりたい方、ご連絡ください。
私、原田芳裕は、様々な方と繋がりたいと思っています。もし、私と繋がりたいという方は、是非、下のメールフォームから、ご連絡ください。ご相談事でも構いません。お待ちしております。




