春日井市議会の議員でも、政治ハラスメントの問題が明るみになる。
春日井市議会の自民党系最大会派内で、ハラスメントでの裁判の訴えが起こりました。ニュースで紹介されています。
「会派前代表が退会強要や暴言」 春日井市議提訴:中日新聞Web (chunichi.co.jp)
一部、引用します。
目次
- 1 「会派前代表が退会強要や暴言」 春日井市議提訴
- 1.1 このニュースに対する、はらだの所見
- 1.2 追記;高裁判決まできて見えてきた、この政治ハラスメント裁判の意味
「会派前代表が退会強要や暴言」 春日井市議提訴
2023年2月2日 05時05分 (2月2日 08時55分更新)
愛知県春日井市議会の自民党系最大会派に所属していた奥村昇次市議(67)=一期目=が一日、会派の前代表の友松孝雄市議(73)=七期目=から退会強要や暴言などのハラスメント行為を受けたとして、友松氏に二百万円の慰謝料などを求める訴訟を名古屋地裁に起こした。友松氏は取材に「受けて立ちます」と話した。
友松氏は現在の市議会では期数が最多。議長や県市議会議長会長を務めたほか、昨年四月まで愛知、岐阜、三重、静岡各県の全市議会でつくる東海市議会議長会の会長も務めた。
訴状によると、友松氏は昨年十二月、奥村氏の議会報の原稿の提出が年末まで遅れたことを非難。事務局職員の多忙のためだったが、奥村氏の人格や過去のミスなどにも言及して「会社で言うと社長の自分に対し、ヒラの一年生が歯向かうとはなんだ、退会しろ」と迫った。
奥村氏は一月四日付で除名処分となったが、会派の規約にある全員会の決議がなく不当と主張。「優越的地位を背景に、政治家としての評価、個人の尊厳を傷つけられた」としている。
このニュースに対する、はらだの所見
政治の世界におけるハラスメントの問題は、根深いものがあると思っています。実際、私も選挙に立候補しようとして、人格否定につながるような行為を受けたことがあります。
議員になる、というのは、一種の権威性をもつものですから、無自覚のハラスメント行為をしてしまう、受けてしまう、ということはあると思います。そこには、「除名」「公認しない」「認めない」などの行為で権威性を奪おうとすることが平然と行われることもあります。しかし、それらは法的にも妥当性があるとは言い難く、許されないとは言え、あたかも自分が正しいかのように、権威を保とうとする構図が見え隠れします。とは言え、選挙で選ばれた議員が絡むハラスメント問題は、民主主義の根幹を揺るがしかねないものでもあり、私自身ハラスメント対応の専門家として、政治のハラスメント問題に取り組んでいきたいと思います。
追記;高裁判決まできて見えてきた、この政治ハラスメント裁判の意味
春日井市議会の自民党系最大会派であった自由クラブをめぐる、奥村昇次市議と友松孝雄市議の裁判について、以前、私はこのページで「政治の世界におけるハラスメントの問題は、根深いものがある」と書きました。当時は、訴訟が提起された直後であり、新聞報道と訴状の内容から、会派内の権力関係、除名、退会強要、政治家としての尊厳の問題を考えたものでした。そこから地裁判決、高裁判決まで進み、この裁判は、単なる一市議会内の対立にとどまらない意味を持つものになったと思います。高裁まで進み、判決が出て、奥村市議が裁判の書面を開示していただいているので、それを分析して、私なりのこの「政治ハラスメント裁判」の意義について述べたいと思います。
結論は敗訴。しかし、裁判としては評価できる
この裁判は、結論だけを見れば、原告側の請求は地裁でも高裁でも認められていません。地裁は請求を棄却し、高裁も控訴を棄却しました。つまり、慰謝料請求という意味では、原告側は勝てなかった裁判です。
しかし、私は、この裁判を「評価できる裁判」だと思います。なぜなら、この裁判は、政治の世界で起きるハラスメント、会派内部の力関係、除名処分の手続、そして議員同士の関係における人格的尊厳という、これまで法廷に乗りにくかった問題を、具体的な訴訟資料と証人尋問を通じて、かなり可視化したからです。
裁判は、勝ったか負けたかだけで評価するものではありません。もちろん、訴訟としては勝訴が目的です。しかし、ある問題を社会の前に出し、記録として残し、裁判所に判断を迫ったという意味では、敗訴判決であっても大きな意味を持つことがあります。この裁判は、まさにそういう裁判だったと思います。
訴状が提起した問題は、かなり本質的だった
この裁判の訴状が提起した問題は、大きく分けると二つでした。
一つは、令和4年12月28日に、自由クラブ団長であった友松氏が、奥村氏に対して、議会報原稿の問題を理由に強く非難し、謝罪を求め、さらに退会を迫ったのではないかという問題です。
もう一つは、令和5年1月4日に、奥村氏が自由クラブから除名処分とされたことについて、会派規約上必要とされる全員会の決定が本当にあったのか、弁明の機会があったのか、三役だけで事実上決めたのではないか、という問題です。
これは、単なる「人間関係のもつれ」ではありません。市議会の会派は、議会内での活動、政策形成、議員としての発言力、政治的信用に関わる重要な単位です。その会派から「除名」されるということは、単なる任意団体からの退会以上の意味を持つ場合があります。
だからこそ、私は、この訴状が「政治家同士の争い」ではなく、「政治の場におけるハラスメント」として問題を提起したこと自体に意味があったと思います。
地裁判決は、会派自治をかなり広く見た
地裁判決は、原告側の主張をかなり狭く見ました。特に、12月28日のいわゆる「社長」「ヒラの一年生議員」「退会しろ」という趣旨の発言について、地裁はこれを認定しませんでした。
また、1月4日の除名処分についても、地裁は、全員会が開催され、意見聴取や採決があり、全会一致で除名が決定されたと認定しました。さらに、自由クラブの規約にいう「役員会」についても、三役会と解する余地があるとして、手続違反を否定しました。
地裁判決の根底にあるのは、会派内部の自治を広く尊重する考え方です。市議会議員は選挙で選ばれた公職者であり、会派内では政治的な議論や対立もある。だから、よほどのことがなければ、それを民法709条の不法行為として扱うべきではない、という発想です。
この考え方自体は、まったく分からないわけではありません。政治活動には、通常の職場とは違う緊張関係があります。政策の違い、会派方針の違い、選挙を控えた利害の対立もあります。裁判所が、そこに安易に介入することに慎重になるのは理解できます。
しかし、その一方で、会派自治を広く見すぎると、会派内部での強い立場を利用した圧力や、手続を軽視した排除が、すべて「政治的自治」の名で覆われてしまう危険があります。
地裁判決の要旨
| 争点 | 原告側の主張 | 地裁の判断 | 判決の意味 |
|---|---|---|---|
| 12月28日の発言 | 友松氏が、奥村氏に対し、「7期議員を務めた会社でいうと社長」「ヒラの1年生議員」「退会しろ」という趣旨の発言をした。これは会派内の優越的地位を利用したハラスメントである。 | そのような発言があったとは認定できないとした。加納証人が聞いていないことなどを重視し、奥村氏本人・梶田証人の供述を採用しなかった。 | 地裁は、強い発言そのものを認定しなかったため、ハラスメント性の判断に踏み込まなかった。 |
| 会派内の優越的地位 | 友松氏は自由クラブ団長であり、7期議員として強い影響力を持っていた。奥村氏は1期目議員であり、実質的な力関係があった。 | 市議会議員同士はいずれも選挙で選ばれた公職者であり、基本的には対等な地位にあると判断した。 | 地裁は、会派内の実質的な上下関係よりも、公選職としての形式的対等性を重視した。 |
| 1月4日の除名処分 | 三役が事実上、奥村氏の除名又は自主退団を決め、本人に十分な弁明機会を与えず、全員会での正式な決定もなかった。 | 全員会は開催され、意見聴取・採決が行われ、全会一致で除名が決定されたと認定した。 | 地裁は、会派内部の意思決定を比較的緩やかに認め、厳格な採決や議事録の有無を重視しなかった。 |
| 自由クラブ規約上の手続 | 規約では、除名等の処分は「役員会を経て全員会で決定する」とされており、三役だけの協議では足りない。 | 規約上の「役員会」は三役会と解する余地があるとし、三役で協議した後、全員会で決定された以上、手続違反はないと判断した。 | 地裁は、規約文言よりも、会派内の運用・自治を広く尊重した。 |
| 名誉侵害・人格的利益侵害 | 「除名」という扱いにより、政治家としての社会的評価・名誉・尊厳が傷つけられた。 | 除名処分が外部に公表されたとはいえず、被告個人による名誉侵害行為も認められないとした。 | 地裁は、除名処分を名誉毀損や人格的利益侵害として捉えることに慎重だった。 |
| 被告個人の責任 | 友松氏が団長として一連の排除過程を主導した以上、個人として不法行為責任を負うべきである。 | 除名処分は自由クラブという会派の行為であり、友松氏個人の独断によるものではないとした。 | 地裁は、会派の団体行為と個人責任を切り離し、友松氏個人の損害賠償責任を否定した。 |
このように見ると、地裁判決は一貫して、会派内部の自治を広く尊重し、政治会派内の出来事を民法上の不法行為として捉えることに慎重な姿勢を示していました。つまり、地裁は「会派内部の手続に多少の粗さがあったとしても、それは政治的自治の範囲内であり、直ちに個人の慰謝料責任にはならない」と見たのです。
証人尋問で見えたもの
この裁判で重要だったのは、証人尋問です。
原告側からは奥村氏本人と梶田証人が、被告側からは友松氏本人、金澤証人、加納証人が、それぞれ証言しました。証人尋問によって見えてきたのは、1月4日の手続が少なくとも非常に粗かったということです。
被告側証人の供述を前提にしても、三役で事前に「除名相当」「ただし自主退団の選択肢もある」という方向性が話し合われ、奥村氏本人には「自主退団か除名か」という二択が示されたことは、かなり明らかになりました。
また、全員会についても、厳格な意味での挙手採決や、明確な賛否確認があったというより、説明があり、何人かが賛意を示し、反対がなかったので了承と扱った、という程度に見えます。
これは、会派内部の通常の方針決定であれば許されるのかもしれません。しかし、本人の意思に反して会派から排除する「除名」という重大な処分であれば、本当にそれで足りるのか。私は、そこに大きな疑問を感じます。
控訴理由書が突いた二つの核心
控訴理由書は、争点をかなり絞っていました。
一つは、12月28日の発言が実際にあったという点です。原告側は、「7期議員を務めた会社でいうと社長」「ヒラの一年生議員」「退会しろ」という趣旨の発言は、極めて具体的で特徴的であり、奥村氏本人も梶田証人も一貫して述べていると主張しました。
もう一つは、1月4日の全員会で除名決定はなかったという点です。特に重要だったのが、会派届出事項異動届が実際には1月13日に提出されていたにもかかわらず、1月4日に遡って収受処理されていたという事実です。
この点は、非常に重要です。もし本当に1月4日に正式な除名決定がなされていたのであれば、なぜその日に正面から届出をしなかったのか。なぜ1月13日になってから、1月4日に遡る形で事務処理されたのか。この疑問は、地裁判決の事実認定を揺さぶるものだったと思います。
高裁判決は、地裁判決を一部修正した
そして高裁判決は、ここで非常に重要な判断をしました。
高裁は、地裁とは異なり、12月28日の発言について、かなり原告側に寄った認定をしました。高裁は、友松氏が自由クラブ団長であり、7期議員である立場を背景に、会社でいえば社長に相当するという趣旨の発言をし、1期目の奥村氏をヒラ社員になぞらえ、強い言葉でたしなめ、退会を促した事実を認めています。これは、地裁判決から見ると大きな前進です。
また、高裁は、会派届出事項異動届についても、実際には令和5年1月13日に春日井市議会事務局が受け取ったものを、1月4日に遡って収受したものとして扱い、同日付の受付印を押したことを認定しています。これも、原告側の主張の重要部分を認めたものです。
この二つの認定は、かなり大きいと思います。
つまり、高裁は、地裁のように「発言は認められない」「1月4日受付印がある」という形式的なところで終わらせなかったのです。証拠を見て、少なくとも、強い退会促し発言があったこと、会派届出の事務処理に遡及処理があったことを認めたわけです。
高裁判決の要旨
| 争点 | 高裁の認定・判断 | 地裁判決との違い | 判決の意味 |
|---|---|---|---|
| 12月28日の発言 | 友松氏が、自由クラブ団長・7期議員という立場を背景に、奥村氏に対し、「会社でいえば社長」「ヒラの1年生議員が刃向かうとはなんだ」という趣旨の発言をし、強い言葉でたしなめ、自由クラブからの退会を促したことを認定した。 | 地裁は、この強い発言自体を認定しなかった。高裁は、奥村氏本人と梶田証人の供述を重く見て、友松氏の否認供述を信用しなかった。 | 高裁は、原告側が問題にしていた「強い退会促し発言」が実際にあったことを、かなり明確に認めた。 |
| 発言の違法性 | 強い発言はあったが、奥村氏は自らの正当性を主張し、退会についても全員会に諮るべきだと反論していた。そのため、反論を躊躇させるほどの違法な圧力とはいえないと判断した。 | 地裁は、発言自体を認定しなかったため、発言を前提にした違法性判断には踏み込まなかった。高裁は、発言を認定したうえで違法性を否定した。 | 高裁は、事実としては原告側に寄ったが、法的評価では「不法行為とまではいえない」と判断した。 |
| 会派届出事項異動届の処理 | 会派届出事項異動届は、実際には令和5年1月13日に春日井市議会事務局が受け取ったものであったが、1月4日に遡って収受したものとして処理され、同日付の受付印が押されたと認定した。 | 地裁は、1月4日付の受付印を重視していた。高裁は、実際の受理日が1月13日であり、1月4日への遡及処理があったことを認めた。 | 高裁は、会派届出の事務処理に不透明さがあったことを認めた。これは、原告側の主張の重要部分を認めたものだった。 |
| 1月4日の除名決定 | 会派届出事項異動届が1月13日に受理されたとしても、そのことから直ちに、1月4日に自由クラブ内部で除名決定がなかったとはいえないと判断した。 | 地裁と同じく、1月4日に除名処分が決定されたという認定自体は維持した。 | 高裁は、届出事務の遡及処理と、会派内部の除名決定の有無を切り分けて判断した。 |
| 議事録の不存在 | 除名という重大事項について議事録が作成されていないことは問題視され得るが、全員会では必ず議事録が作成されると認める証拠はないとして、議事録がないことだけでは除名決定不存在を認めなかった。 | 地裁と同じく、議事録の不存在を決定的事情とは見なかった。 | 高裁は、会派内部の意思決定について、厳格な議事録や採決記録までは要求しなかった。 |
| 結論 | 地裁判決の一部の事実認定を修正しつつも、最終的には不法行為の成立を否定し、控訴を棄却した。 | 地裁よりも原告側に有利な事実認定をしながら、結論は維持した。 | 高裁判決は、「事実認定では一部前進、しかし違法性判断では敗訴」という構造になった。 |
このように、高裁判決は、原告側にとって重要な事実をいくつか認めました。
しかし、それはあくまで「事実認定上の前進」であって、「不法行為として違法である」と認めたわけではありませんでした。
それでも高裁は違法性を認めなかった
しかし、高裁は結論として、原告の請求を認めませんでした。
その理由は、かなり特徴的です。高裁は、たしかに強い言葉で退会を促す発言はあったとしながらも、奥村氏はそれに対して自らの正当性を主張し、退会については全員会に諮るべきだと反論していたと見ました。そのため、友松氏の発言が、奥村氏の反論を躊躇させるほど繰り返されたとは認められず、団長の地位を殊更に利用して反論を遮ったとはいえない、と判断したのです。
ここが、この高裁判決の一番考えさせられるところです。
私は、ここには疑問があります。ハラスメント的な言動は、相手が一切反論できなかった場合にだけ成立するものではありません。相手が反論したとしても、その場にある力関係、組織内の地位、年齢や期数、会派内での影響力、そしてその後の処分へ向かう流れを見れば、社会的相当性を逸脱する場合はあり得ます。
特に本件では、12月28日の発言は、その場限りの叱責ではありませんでした。その後、1月4日に「自主退団か除名か」という流れにつながっています。そうであるならば、12月28日の発言は、単なる注意ではなく、会派からの排除へ向かう過程の一部として見る必要があったのではないかと思います。
除名処分についても、高裁は踏み込まなかった
除名処分についても、高裁は、1月13日提出・1月4日遡及収受という事実を認定しながら、それだけでは1月4日に除名処分が行われていなかったとはいえないと判断しました。また、議事録が作成されていないことについても、全員会で必ず議事録が作成されると認める証拠はないとして、除名決定不存在までは認めませんでした。
たしかに、これは法律論としては理解できる部分があります。
届出が1月13日だったからといって、1月4日に内部決定がなかったとは直ちにはいえません。議事録がないからといって、会議がなかったとも直ちにはいえません。
しかし、私は、ここでも少し違和感を持ちます。
問題は、個々の事実を一つずつ切り離して見ることではありません。12月28日の強い退会促し発言、1月4日の三役による二択提示、全員会決議の曖昧さ、議事録の不存在、1月13日の遡及収受処理。これらを一連の流れとして見ると、本当に規約に従った公正な除名処分だったのか、かなり疑問が残るからです。
裁判所は、個々の事情について「これだけでは足りない」と判断しました。けれども、手続の違法性というものは、個々の一点だけでなく、複数の事情が積み重なって見えてくることがあります。この裁判では、その連鎖の見方がもう少し必要だったのではないかと思います。
この裁判が残した意味
この裁判は、最終的には原告側が負けました。
しかし、高裁判決まで見れば、この裁判が残した意味は小さくありません。
第一に、政治会派内での強い退会促し発言が、裁判所によって事実として認定されました。これは重要です。政治の世界では、年長者、期数の多い議員、会派幹部が、若手や一期目の議員に対して強い言葉で圧力をかけることが、時に「政治の世界では当たり前」とされがちです。しかし、この裁判によって、少なくともそのような発言が裁判記録に残り、高裁判決にも認定されました。
第二に、会派届出事項異動届の遡及処理という、非常に不透明な事務処理が明らかになりました。これも重要です。会派内の処分が、どのような手続で、いつ、どのように事務処理されるのか。その記録のあり方は、議会の透明性に関わります。
第三に、会派自治とハラスメントの境界が、改めて問題として浮かび上がりました。裁判所は、会派自治を広く尊重しました。しかし、そのことは逆に、今後の課題を明確にしたともいえます。政治会派内部であっても、人の尊厳を傷つける言動や、手続を軽視した排除が許されてよいのか。この問いは、まだ残っています。
この裁判が持つ意義
| 意義 | 内容 | なぜ重要か |
|---|---|---|
| 政治会派内の圧力を可視化したこと | 高裁は、会派団長・7期議員という立場を背景に、1期目議員に対して強い言葉で退会を促す発言があったことを認定しました。 | 政治の世界では「厳しい指導」「会派内の話」で片づけられがちな言動が、裁判記録として残された点に意味があります。 |
| 会派自治の限界を問い直したこと | 裁判所は最終的に会派自治を広く尊重しましたが、その過程で、除名や退会をめぐる手続のあり方が争点になりました。 | 会派自治は重要ですが、それが強い立場の議員による圧力や、不透明な排除手続を正当化する理由になってよいのか、という問題を浮かび上がらせました。 |
| 除名手続の透明性を問題化したこと | 除名という重大な処分について、全員会での決定、議事録の有無、会派届出事項異動届の処理時期が争われました。 | 会派内部の処分であっても、議会活動に関わる以上、最低限の記録化と手続的公正が必要ではないかという課題を示しました。 |
| 遡及的な事務処理を明らかにしたこと | 高裁は、会派届出事項異動届が実際には1月13日に受理され、1月4日に遡って処理されたことを認定しました。 | 会派異動の記録は、市民から見れば議会の公式情報です。その日付処理がどのように行われるのかは、議会の信頼性に関わります。 |
| 政治ハラスメントの難しさを示したこと | 強い退会促し発言が認定されても、不法行為としての違法性までは認められませんでした。 | 政治家同士は形式的には対等とされやすく、実質的な力関係や圧力が法的に評価されにくいという課題が明らかになりました。 |
| 敗訴でも記録を残す意味を示したこと | 慰謝料請求は認められませんでしたが、発言や事務処理の一部は高裁判決で認定されました。 | 裁判は勝敗だけではなく、見えにくい問題を証拠に基づいて社会的記録に残す役割もあることを示しています。 |
| 今後の議会運営への教訓を残したこと | 会派内で除名や退会を扱う場合には、理由説明、弁明機会、明確な決定、議事録化が必要ではないかという問題を提起しました。 | 同じような紛争を防ぐためには、会派内部の慣行に任せるだけでなく、透明な手続を整える必要があります。 |
この裁判の意義は、慰謝料請求が認められたかどうかだけでは測れません。
むしろ、政治の世界で見えにくかった力関係、会派内部の不透明な手続、そして「政治の場だから仕方がない」とされがちな圧力を、裁判記録として社会の前に出したことにこそ、大きな意味があると思います。
政治ハラスメントは、見えにくい
政治ハラスメントの難しさは、表に出にくいところにあります。
職場のハラスメントであれば、上司と部下、使用者と労働者という関係があります。しかし、政治の世界では、形式的には議員同士は対等です。選挙で選ばれた公職者同士だからです。
けれども、実際には、期数、会派内役職、選挙への影響力、地域での人脈、議会内での発言力などによって、強い力関係が生まれます。その力関係は、職場の上司部下関係ほど明文化されていません。だからこそ、ハラスメントとして見えにくいのです。
この裁判は、その見えにくい力関係を、法廷に出した裁判だったと思います。
会派自治にも限界がある
私は、会派自治そのものを否定するつもりはありません。
政治会派は、同じ政策方向を持つ議員が集まる任意団体です。考え方が大きく違えば、同じ会派で活動できなくなることもあります。会派からの離脱や除名が、常に違法だということではありません。
しかし、会派自治にも限界があります。
本人の意思に反して除名するのであれば、少なくとも理由を明確にし、本人に弁明の機会を与え、全員会で明確に議論し、決定過程を記録に残すべきです。これは、裁判で勝つためだけの話ではありません。議会制民主主義の内部における最低限の透明性の問題です。
除名という重大な処分について、「なんとなく了承された」「異議がなかった」「議事録はないが決まった」という形で済ませてよいのか。私は、そこに大きな問題があると思います。
評価できる裁判とは何か
この裁判は、原告側が勝った裁判ではありません。
しかし、私は、この裁判を評価します。
それは、政治の世界で起きるハラスメント的な力関係を、単なる噂や感情論で終わらせず、訴状、準備書面、証人尋問、地裁判決、高裁判決という形で記録化したからです。
さらに、高裁判決は、原告側の主張の一部を明確に認めました。強い退会促し発言があったこと。会派届出事項異動届が実際には1月13日に受理され、1月4日に遡って処理されたこと。これらは、裁判を起こさなければ、ここまで明確に記録として残らなかった可能性があります。
裁判とは、勝敗だけではありません。社会の中で見えにくい問題を、証拠に基づいて可視化する営みでもあります。
その意味で、この裁判は、政治ハラスメントを考えるうえで、非常に重要な裁判だったと思います。
この裁判から考えるべきこと
この裁判から、私たちが考えるべきことは明確です。
政治の場であっても、人の尊厳は守られなければならない。
会派自治という言葉で、すべてを覆い隠してはならない。
除名や退会をめぐる手続は、透明でなければならない。
議員同士が形式的に対等であっても、実質的な力関係は存在する。
そして、その力関係が人を萎縮させ、排除へ向かうとき、それは政治ハラスメントとして検証されるべきです。
この裁判は、慰謝料請求としては認められませんでした。
しかし、政治ハラスメントという問題を考えるうえで、非常に多くの材料を残しました。
私は、この裁判を、単なる敗訴事件として終わらせるべきではないと思います。
むしろ、ここから始まるべきです。
議会内の会派運営はどうあるべきか。
政治家同士のハラスメントをどう捉えるべきか。
民主主義の内部で、人の尊厳をどう守るのか。
この裁判は、その問いを、春日井市議会から社会に投げかけた裁判だったと思います。





